種子島の民話 「夕方は悪魔が来る」

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種子島の民話

発行所 株式会社 未來社
発行者    西谷能英氏
編者     下野敏見氏
日本の民話34 種子島の民話第二集よりお伝えします。

 

 

夕方は悪魔が来る

 昔、大変けんかをする夫婦がおりました。それこそ朝昼晩、目が覚めるとけんかを始め、眠るまでは続くのです。
 ある日、夫が用事があって街に出ましたが帰りは夕暮れになってしまいました。
 人通りのない道を一人で歩いていると、誰か自分についてくるような気配が感じられてきました。
「はてな」
と、そっと振り向いてみました。薄暗い後ろの方から、小さなものが追うようについてきます。
 それとなく振り返り振り返り確かめてみますと、姿は人間のようですが、身の丈は二尺ぐらいしかありません。
「一寸法師ちゅうもんかもしれん」
と夫は考えましたが、それと共に次第に気味悪くなって道を急ぎました。
 ところが、夫が足を早めると、一寸法師もやはり足を早めて、どんどんついてくるのです。
「こらぁ、いけん」
と夫は最後は走って家に入りました。そして、そっと後ろを見ると、庭先からあの一寸法師が家の中をのぞいているのです。夫は体中に寒気を感じました。
 いつもの通りふくれ面をしている妻に、
「おい、頼むから焼酎の燗を熱くして飲ましてくれ」
と頼みました。かねて(いつも)ならすぐ腹をたてる妻が、すぐ焼酎の燗を熱くして持ってきました。
 夫はまたそっと外の様子をうかがいました。今度は、一寸法師は戸の隙間から部屋をのぞいているようです。
 すっかり恐ろしくなった夫は、
「お前も少しどうだ、飲まんか」
と杯を妻にさしました。
「それは有り難いね」
と妻も一口さかずきをあけました。そして、
「これはうまい、さあお返し」
と今度は夫に酌をします。すると、家の外で一寸法師の独り言がしました。
「あばや(あれっ)、おらぁ(私は)家を間違えたごたる、この夫婦はけんかをするとは思えん。」
 夫は、はっと思い当たって耳を澄ましました。一寸法師の足音はだんだん遠くなります。夫は妻に向かって、
「おまやぁ(お前は)、今の外ん声は聞こえんかったか」
と尋ねました。
「うんにゃ、何も聞かんじゃったが・・・」
と妻は不思議そうに夫の目を見つめました。そこで夫は、町帰りに一寸法師につけられたことから、家をのぞかれたことや、一寸法師の独り言などを話しました。
 妻はすっかり恥じ入って、
「今までは口返答ばっかりしてすみ申さんじゃった。これからはかんまぁて(決して)我を通し申さんから」
と言って、それからは本当に仲のいい夫婦になりました。