鹿児島ふるさとの昔話 「さつま熊太郎」

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鹿児島ふるさとの昔話

発行所 株式会社 南方新社
発行者     向原祥隆氏
編者      下野敏見氏
「鹿児島ふるさとの昔話」より鹿児島県内各地に伝わる昔話をお伝えします。大河ドラマ「西郷(せご)どん」が放映されてから”鹿児島弁”に興味を持たれた方も多いかと思います。”種子島弁”とはまた全然違う方言です。イントネーションをお伝えできないのが残念ですが、文字を読んでお楽しみください。

 

 

さつま熊太郎

 昔、紫尾山(北薩の霊山)の麓のある村に、一つの社があったそうじゃ。
 ところが、そこの祭りでは人身御供といって、毎年娘を一人ずつ差し出さねばならなかった。もし、差し出さねばその年は大風が吹いたり、干ばつになったりして稲が実らないといわれていた。
 祭りの何日か前、白羽の矢が屋根に立った家の娘が人身御供になるしきたりであった。
 祭りが近づいてきた。娘のいる家では気が気でなかった。そしたら今年もとうとうある日、一軒の家の屋根に白羽の矢が立ったそうじゃ。
 白羽の矢のたったその家では、親も子も気が狂ったようになって泣き叫んだ。
「うんにゃ、ま、あげな(あんな)可愛(むぞ)か娘を神様に上ぐっちゅこた、本当に可哀想な(ぐらしか)(こっ)じゃ」
 近所の人々は、その家を見上げてはこう言って同情した。しかし、どうしようもなかった。
 その時、そこに一人の旅人が通りかかった。事情を聞いた旅人は言った。
「こらあ、こんな(こげ)事はなかもんじゃ。これは神様のしやることじゃなくて、悪者がおって娘さんを喰うとじゃろ。そんなら、そいつを退治せんにゃならん」
 旅人は、村人の話を詳しく聞いたところが、娘の桶のふたを神様が開けるときは必ず、
「さつま熊太郎にゃ告ぐんな」
と言うのであった、と。それを聞いた旅人は、はたと膝を打って、
「みんな良いか、何としてもそのさつま熊太郎を探し出してくるのじゃ」
と指図した。四方八方手を尽くして探して来たのは、なんと、さつま熊太郎という名の一匹の犬であった。仕方がないのでその犬を娘の代わりに桶の中に入れておいた。
 そして祭りの夜がきた。真夜中に、目のランラン、ランラン光る大きな者が現れた。
「これこれ、これじゃ、イヒヒ。いかなこて(まさか)さつま熊太郎じゃ、なかどねー(ないだろうな)」
こうつぶやいて、桶のふたをひょいと取った。すると、中から真っ黒いものがものすごい勢いで飛び出した。さつま熊太郎であった。大格闘が始まった。しかし、さつま熊太郎にはかなわなかった。
 どさーっと地響きがして倒れたのは、何百年も年をくった大猿であったそうじゃ。
 そしこん話。