種子島の民話 「ねずみ御殿」

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種子島の民話

発行所 株式会社 未來社
発行者    西谷能英氏
編者     下野敏見氏
日本の民話34 種子島の民話第二集よりお伝えします。

 

 

ねずみ御殿

 むかし、あるところに欲のない貧乏な男がいました。年の暮れの二十九日に、浦でイワシを買って帰ってきました。
 荷が重いので、足もだいぶ疲れてきました。そこで道脇の土手に腰を下ろしますと、ねずみが一匹ちょろちょろと出てきました。
 男はねずみを見ると、何かしら不憫になって、
「お前も年取りには魚がいるじゃろう」
と言って、イワシを一匹くれてやりました。
 さて、家に帰った男が、地炉に火を焚いてあたっていると、見慣れぬ立派な侍がやってきました。親しそうに男に向かって、
「おまやぁ、俺の娘に魚を一匹くれたけりゃぁな、心ばかりの礼をしたかから、ぜひ自分の家に来てくれ」
と言いました。
男はびっくりしましたが、昼間ねずみにイワシを一匹やったことを思い出しました。そこで、ねずみの巣にでも連れて行かれては大変と、
「いやいや、行かん」
と答えると、侍は、
「ねずみ相手で嫌じゃろうばって、ぜひ頼む、一緒に行こう」
とどうしても聞き入れません。
「それじゃ行こう」
とついて行くと、さっきねずみが出てきた土手の所まで来ました。侍は、そこの小さな穴を指して、
「俺が家の入口はここじゃ」
と言いました。男はあきれて、
「こがぁなちっか穴にどうして入るるもんかぁ」
と首をひねりましたが、侍が、
「いやいや、お前が行くといって目をつめておれば行かるるとじゃ」
とこともなげに言うのです。
 男は物は試しと、目をつぶって「行くど」と独り言を言い、すぐ目を開けてみました。すると不思議なことにもう立派な御殿に入っていました。
 すると、奥の部屋でにぎやかな囃子の声が聞こえます。行ってみると、ねずみ連中が白装束で米をついているのでした。そして、その面白いこと、男はしばらく見とれてしまったほどでした。
  トクトク トクトク 米をつく
  猫さえおらねば 身はラクラク
  トクトク トクトク 米をつく
  猫さえおらねば 身はラクラク
 口をそろえて歌いながら、調子を合わせてついています。男も、つい面白さに引き込まれてねずみと一緒になってはやしたてました。その為か、ねずみたちは仕事がはかどったと言って大変に喜び、男が帰る時には土産をたくさん持たせました。
 それを見ていたのが隣に住んでいる欲の深い男でした。
「おまやぁ、こがぁな土産物をまあ、どこからもろうて来たとか」
と押しかけて来て尋ねました。そこで、ねずみ御殿に呼ばれたいきさつを話してやりました。
 それから一年、隣の欲の深い男は一日千秋の思いで暮れの二十九日を待ちました。
 その日、早速イワシ買いに行って、きょろきょろしながら土手の道を帰ってきました。聞いていた通り、ねずみがちょろちょろ出てきましたので、それにイワシを一匹くれてやりました。
 そして、家で心待ちにしていると、立派な侍がやってきてイワシの礼を言って、欲の深い男をねずみ御殿に案内してくれました。
 欲の深い男は、どこで米をついているかときょろきょろ見回して、やがて奥の部屋まで来ました。ねずみたちが白装束でにぎやかに米をつき、周りには米俵が山のように積んであります。
  トクトク トクトク 米をつく
  猫さえおらねば 身はラクラク
  トクトク トクトク 米をつく
  猫さえおらねば 身はラクラク
と楽しそうに囃子が沸き上がります。欲の深い男はその歌を聴いているうちに、「猫がおったらどうなるか」と考え始めました。そして、
「猫の声の真似をすれば、あの俵を置いてねずみはみんな逃げてしまうだろう」
と思いつきました。欲の深い男は、
「ニャオー、ニャオー」
と猫の声をまねました。
「チュチュチュチュ」
 ものすごい騒ぎと鳴き声が起こって、しばらく何が何だかわからなかったのですが、それが収まると部屋は真っ暗になってしまいました。
 それもそのはず、欲の深い男はモグラになってしまっていたのです。モグラは目が見えず、道をあっちこっち探すばかりでした。
 正月四日になりました。この日は鍬入れといって鍬の使い始めの日です。
 ある百姓が畑の鍬入れに行きますと、畑の土をやたらに持ち上げる者がいます。百姓はそこに向かって、
「えいっ」
と鍬を打ち込みました。すると見事手ごたえがあって、欲張り男のモグラの首を打ち切っていましたげな。