2019-01-28
種子島の民話
発行所 株式会社 未來社
発行者 西谷能英氏
編者 下野敏見氏
日本の民話34 種子島の民話第二集よりお伝えします。
へひり嫁
むかし、むかし、ある家に嫁さんが来ました。
そのうち嫁さんはだんだん痩せて行きますので、しゅうとが心配して尋ねました。
「わごう(あんたは)、なしかぁ痩するとか」
嫁さんは恥ずかしそうにもじもじしていましたが、
「私ぁ、へをひる生まれでござり申すばって、それをひらんごと堪えとり申すので、そいで痩すいとでござり申す」
と答えました。
「そがんたぁ、遠慮せんでよか。ひりたか時ぁどんどんひれや。」
しゅうとにそう言われて安心した嫁さんは、今まで堪えていたので、思い切りおならをしました。ところが、ものすごい音で、棚の茶碗がその響きでガラガラッとくずれ、下の土間に落ちて壊れてしまいました。さすがにしゅともあきれてものが言えませんでした。
「こがん嫁を養えば、しょせん世帯が持てん。」
しゅうとは数日後にとうとう嫁を戻してしまいました。
その頃、村では一人娘が病気にかかって、いろいろな薬を飲んでも一向良くなりません。そこで、易者に行って尋ねたところ
「五郎の家ん庭ぁ、ふとか(大きな)柿ん木があっから、その木ぃなっとる柿を食えば、いっきぃ(すぐに)治る」
との答えでした。
易者の言ったように、柿の木の一番高い枝に柿の実がなっていましたので、早速弓の上手な人を雇って射てもらいましたが、あまりに高くて一つも当たりません。娘の親はどうしたものかと思案に暮れましたが、
「そうじゃ、近頃へひりの凄か嫁さんが居って、そいで戻されたちゅう話を聞いた。あれがへをひれば、あえん(落ちない)もんじゃろうか」
と、その嫁さんを雇いに出かけました。
いよいよ嫁さんが柿の木の下で試してみることになりました。
「ブーブブブブー、ボンボコボンボン」
その音の物凄いこと、にわかに大風でも吹いたように大きな柿の木が根元からユサユサと揺れ動き、真っ赤な柿の実がぼたりぼたりと落ちました。
その柿を食べた娘は、不思議にすっかり元気になりました。
この評判はたちまち村中に広がり、嫁を戻したしゅうとの耳にも入りました。
「弓でも射りぃでけんものを、よう落としたもんじゃ。あがーな嫁は他ぁにゃおらん。良か嫁じゃ。どんが(うちの)息子ぇにゃおおかずりじゃ(よすぎるくらいだ)」
しゅうとはすっかり感心して、嫁さんをまた家に連れ帰りましたげな。