種子島のお化けのはなし

YO!!めん 種子島のお化けの話

 

ガラッパ・河太郎

 「めん」とは? 種子島の言葉で妖怪のことを「めん」、または「めんこう」と呼びます。
 妖怪はどこにでもいる。山奥の尊い御神木から、街中の一般家庭の風呂場、眠る人の夢の中にまで潜んでいる。
 何故かと言えば、妖怪とはその土地の自然であり、家であり、人であり、道具であり、人の営みでもあるからだ。それほど人と妖怪は密接な関係にあり、人の住む場所には必ず妖怪がいる。妖怪は人々にとって畏敬や恐怖の念をもって接する異形であるとともに、故郷の兄弟のようなものでもあるのだ。
 では、種子島にはどのような妖怪がいるのだろうか。軽く手元の資料を見ただけでも二十は超えそうだ。天女に天狗、龍神、しゃべる石、やかんやトックリ、ひょうたんの姿のお化け等、全てを紹介しようとすると限られたページ数ではとても足りないようである。
 そこで今回は、水遊びの機会が増えるこの季節に合わせ、水の妖怪「河童」に的を絞って紹介したいと思う。

 

 種子島の河童は「ガラッパ」または「河太郎」と呼ばれる。ただし「ガラッパ」と呼ぶ場合は、河童以外の川や海の妖怪や水神を含む、水の怪全般を指す場合もあるようだ。
 西之表市の伝説という本によると、ガラッパは秋の彼岸には海へ、春の彼岸は山へ行くと書かれている。河童が春と秋に移動する話は主に九州地方で伝えられているが、この移動の様子は人が見てはならないものとされ、彼岸前後の夜に移動するというところが多いようである。
 同書でも、秋の彼岸の夜更けにガラッパが川に沿って海へ下っていく音が聞こえた、という話が紹介されている。
 河童の移動については、春には里に近い川へ降りてきて田の神となり、冬には山の神として冬山へ行く、という河童を守り神としてみる説もあり、種子島のガラッパも、同じように水を司る神として神格化されていると推測される。
 河太郎と呼ばれる場合は、一般的に想像される河童の姿を思い浮かべて頂いていいようだ。
 特に人や牛馬を川へと引き込み、尻子玉を抜くなど、凶暴な面もあるが、相撲が好きで、金物が苦手で、魚取りが上手く、人懐っこくて愛嬌がある。
 河太郎は、ガラッパよりはよほど身近で気安い存在のようで、「河太郎の日魚」という昔話が残されている。(「種子島の民話」でも後日ご紹介します。)
 昔、甲女川の水が大雨で溢れた時のこと、近所に住んでいた甚吉というお爺さんの所へ河太郎が訪ねて来て、「この大水で俺の穴の口に何か詰まってしまい、出入りができないから、是非のけてくれ」と頼んだという。
 甚吉爺さんは「そう言って、俺を潜らせて尻子玉を抜く気だろう」と頼みごとを断ったが、「そんなことは決してしないからどうか取ってくれ」と涙何度も頼まれ、どうも嘘ではなさそうに思い、用心しながら川へ潜ってみると、穴の口にモーガという、牛や馬に引かせて田畑の土を砕く鉄製の農具がはまっていた。これを取り除いてやると、河太郎は非常に喜び、「この礼にお前に毎朝日魚を届けてやろう、でもこのことは決して人には言うなよ」と言って川に帰った。
 それから毎朝、約束通りに大きな魚が一匹ずつ、甚吉爺さんの住む小屋の壁に掛けられるようになった。嬉しくなった爺さんが、ついそのことを人に話してしまうと、それっきり魚は壁にかからなくなってしまった。
 これは約束を守らなかった自分が悪かったと深く反省した甚吉爺さんは、丘の上に石を立てて河太郎を祀り、水天宮として崇めた。この祠は「岩立様」と呼ばれ、今でも近所の人が毎年六月灯を続けているそうだ。
 ある程度の年配の方々は、川辺等で遊ぶ時に手を合わせてから水に入った覚えはないだろうか?
 それは寺社仏閣に限らず、目には見えなくても、自分たちにその恵みを分け与えてくれる者に対する、感謝と尊敬を示す、謙虚で思いやりのこもったしぐさであった。
 これからいよいよ毎日が暑く、水の恋しい季節となる。水辺に遊びに行く人達は、入る前に手を合わせてみてはどうだろうか。楽しく遊ぶ皆さんを河太郎がニッコリと見守ってくれるような気がするのだ。

【河童】かっぱ   (出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版)

 日本で最もよく知られている妖怪の一つで、川や池などの水界に住むという。カッパという呼称はもともと関東地方で用いられていたもので、エンコウ、ガワタロ、ヒョウスベ、メドチ、スイジン、スイコなどと呼んでいるところもある。その形状や属性も地方によりかなり異なっているが、広く各地に流布している一般的特徴は、童児の姿をし、頭の頂に皿があり、髪の形をいわゆる(おかっぱ頭)にしている、というものである。頭上の皿の水が生命の根源であって、そこに水がなくなると死んでしまうという。

種子島の情報を発信するフリーマガジン AVAYA!(あばや!)Vol.17より

 

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