種子島の民話「クラゲの骨」

種子島の民話

発行所 株式会社 未來社
発行者    西谷能英氏
編者     下野敏見氏
日本の民話34 種子島の民話第二集よりお伝えします。

 

 

クラゲの骨

 むかし龍宮の乙姫様が、猿の生肝を食わなければ治らないという不思議な重病にかかってしまいました。海の生き物が心配して、もやぁ(集会)をして誰がその猿の生肝を取りに行くかを決めることになりました。結局くじで決めることになって、キンゴダイとクラゲがその役に上がりました。しかしキンゴダイは背中がとがっていて、そのうえ背びれが鋭いから猿を乗せるには向かん、ということでとどのつまりクラゲが一人行くことになりました。
 クラゲは喜び勇んで出かけました。あっちの島、こっち島と探し回った末、とある小さな島で遊んでいる猿を見つけました。「猿どん、猿どん、龍宮に連れて行こうか」とクラゲは偶然会ったような様子で言葉を掛けました。「龍宮、そら一体どがんとこかい」と猿は目を丸くして聞きました。「こん海ん中にあるそれはそれはきれいなとこじゃよ」と口下手なクラゲは、言葉のつぎほを考え考え続けました。「家は金銀サンゴでできておるし、食べ物は陸にはないうまいものばかりじゃ」「そいじゃぁ、行たてみろうか」と猿はクラゲの頭に乗りました。
 クラゲは内心わくわくし、傘を激しく動かしながら龍宮へ急ぎました。その頃のクラゲには、まだ骨がありました。
 だいぶ来てからクラゲは内心の喜びを隠しきれなくなりました。それに、「ここまで来れば大丈夫じゃろう」と考えました。「猿どん、実はなぁ龍宮の乙姫様が病気になって、それを治す薬は猿の生肝しかなかちゅうことで、こうしてわぁを連れて行くところじゃ」と本当のことをしゃべってしまいました。
 何となく不安に思っていた猿はこれを聞くと、それこそ肝が消えるほど驚きましたが根がずるがしこい奴ですから、たちまちはかりごとを考えました。「クラゲどん、わごうなしかぁそれを早う言わんとか。肝は陸で遊んでいるとき外しておいてそのままじゃど」と言いました。クラゲはびっくりして「そりゃ本当の事かい」と聞き返しました。「うん、本当じゃ。そがぁな事情なら気の毒じゃから肝はくれてやるが、それにゃぁ取りぃ戻らんばじゃな」と猿は言いました。クラゲは、コロリと猿に騙されてしまいました。そして、あの島に向かって引き返しました。
 ところが島に着いたとたん、猿は島中の仲間を連れてきてクラゲをひっ捕まえて袋叩きにしました。クラゲの骨は粉々に砕けてしまいました。そして泣く泣く龍宮に帰ると、怒った仲間からさんざんにやっつけられたうえ、龍宮に戻ってこられないように波の上に浮かべられてしまいましたげな。