2018-12-21
種子島の民話
発行所 株式会社 未來社
発行者 西谷能英氏
編者 下野敏見氏
日本の民話34 種子島の民話第二集よりお伝えします。
げんえき主の魚買い
むかし、西之表に源右衛門という主(殿に仕えるふもと侍)がおりました。下男下女をおいている人でしたが、大変なしまり屋で世間からはげんえき主と呼ばれていました。
げんえき主は、魚を買いにやるときはいつも魚が売り切れた頃を見計らって、洲の崎へやるのでした。そのころから、洲の崎は舟人(ふなとう)部落で、また魚の水揚げ場でもありました。
下女に「もみ」を持たせて、それを魚と交換するように言いつけるのですが、魚が売り切れた頃にやるのですから、魚が手に入るはずはありません。
下女が、また、と言わんばかりに
「魚は売り切れて無かった」
と言って戻ると、げんえき主はにこにこして下女が持ち帰ったもみを特別にこしらえたもみ入れの中に入れるのでした。こうして魚で倹約した分をもみで蓄えたのでした。
洲の崎部落の人は、げんえき主が魚を買ったためしがないので誰からともなく相談して、一つ試してみよう、ということになりました。
「げんえき主が魚を買うたのを見たことが無かが、それじゃぁ一つ、こっちから持って行たてみろうや。主の家の木戸口に魚を二、三匹置いて、どがぁせらるっか(どうなさるか)、ようっと(じっと)見とろうじゃなっか」
と一人が言いました。そして、わざと売らずに残しておいた魚を、げんえき主の木戸口に三匹置いて、物陰からそうっと覗いていました。
やがて、げんえき主が、庭掃除にほうきを持って出てきました。そして、そこに置いてある魚が目につきますと、
「わりゃぁ(おまえは)飯盗人じゃ、何しにこけぇ(ここに)来たか、こら、こうしくくれる」
と、あっという間もなくほうきの柄でそれを跳ね飛ばしてしまいました。
これを見た洲の崎の舟人はたちは、すっかりあきれてしまいました。そして、
「あれなら米も貯まんどうわい」
と言い交わしながら帰りました。
げんえき主は下男でも下女でも使いにやるときは、用事は使いの手の平に書いてやりました。
ある日げんえき主は、いつものように下男の手の平に用事を書いて、友達の侍の所へ使いにやりました。
侍の方では、このけちん坊のげんえき主を一つやっつけてやろうと考え、下男に
「俺の返答は柴ん葉に詳しく書いてやるからな」
と言って、二、三枚の木の葉に小さな字を書いたのを渡しました。
下男が戻って、返事の木の葉をげんえき主に渡しますと、げんえき主は大喜びでそれを受け取り、
「こりゃぁ良かもんのもろうた。焚き付けぇせんばじゃ。」
と言って、ありがたそうに木小屋に始末しましたげな。