2019-02-15
種子島の民話
発行所 株式会社 未來社
発行者 西谷能英氏
編者 下野敏見氏
日本の民話34 種子島の民話第二集よりお伝えします。
やまんしゃんご
むかしむかし、あるところにじいさんとばあさんと娘が三人で暮らしていました。
娘は両親が年とってから生まれた一人娘で、大変な器量良しだったのでじいさんばあさんはそれはそれは大事にしました。どこに行くにも、自慢そうに連れて歩くのでした。
ところが、ある日じいさんばあさんだけで出かけなければならない用事ができて、二人は仕方なく娘を留守番に残して出ることになりました。
出かけるとき娘に、
「ひょっとすると、やまんしゃんごがやって来るかもしれん、もし来たらかんまぁて(絶対に)戸を開けてはいけんど」
と言い聞かせました。
娘は中からしっかり戸締りをしてびくびくしながら留守番をしました。ところが案の定、やまんしゃんごがやって来たのです。そっと家に近寄ると、戸の隙間に手を差し込んで、
「お前が戸を閉めるとき俺の手をはそうだ(挟んだ)もんじゃから痛うしてたまらん。指がひっちぎりょうごたる(ひきちぎれそうだ)、もちっと(もう少し)緩めてくれぇ」
と哀れな声を出すのです。
娘はどきどきする胸を抑えてしばらく黙っていましたが、やまんしゃごがあまり哀れな声を出すので、つい可哀想になって雨戸をすこし緩めてやりました。
すると、やまんしゃんごはいきなり戸の隙間に毛むくじゃらの腕を突っ込んできたのです。
娘は慌てて戸を閉めました。腕を挟まれたやまんしゃんごは、
「わあ、腕が折れる、痛か痛か」
と悲鳴を上げるのです。娘はまた可哀想になって戸を緩めてやりました。するとその瞬間、やまんしゃんごは体を半分ねじ込んできました。
娘が慌てて戸を閉めたときはもう遅く、体半分を家の中に入れて
「あいた、あいた、五体がくゆる、早う開けてくれぇ」
と悲鳴を張り上げます。娘は用心しながらまた少し戸を緩めました。すると、あっという間もなくやまんしゃんごは家の中に飛び込んできました。体中、ふさふさと毛の生えた、恐ろしい姿をして、目は火のように燃えています。娘は「わーっ」と叫んだなり、その場に立ちすくんでしまいました。
その娘をやまんしゃんごは軽々と抱き上げて、裏庭に出ました。娘はすっかり気を失っています。やまんしゃんごは、そこにある大きな柿の木のあの枝にもこの枝にも、娘の髪の毛を結び付けてぶら下げ、そして体中を蹴飛ばしてしまいました。
やまんしゃんごは恐ろしい顔でにたりと笑うと、のっそりと家に入ってたちまち娘に化けました。
やがて、じいさんばあさんが帰ってきました。すぐ娘に、
「やまんしゃんごは来んじゃったか」
と聞きました。やまんしゃんごの化け娘は、
「そがぁなもんな来んじゃったどう」
と娘の声色で答えました。
ばあさんが、いそいそとお土産の餅やまんじゅうを出しますと、これにはやまんしゃんごの本性を現して、娘は両手いっぱいに餅やまんじゅうを持ってがつがつ食い始めました。じいさんとばあさんはびっくりして、
「なしかぁそがぁにせぇて(どうしてそんなに急いで)食うとか」
と尋ねました。
「留守番しよったもんじゃから、ひだるうして(ひもじくて)たまらんとじゃらぁ」
と娘は答えて、いっそうむしゃむしゃ食べるのです。
じいさんは「どうもおかしいぞ」と思って、こっそり裏に出てみました。可哀想に本当の娘は、髪の毛で柿の木にぶら下げられて死んでいるのです。
「敵を討たんじぃ、おくもんか」
とじいさんとばあさんは、割り木の大きなのを持って娘に忍び寄り、
「われこさぁ(お前こそ)、やまんしゃんごじゃろう」
と叫んで、必死の力でやまんしゃんごを叩き殺してしまいましたげな。