種子島の民話 「太郎の花嫁」

  • TOP
  • [カテゴリー: お知らせ]
  • 種子島の民話 「太郎の花嫁」

種子島の民話

発行所 株式会社 未來社
発行者    西谷能英氏
編者     下野敏見氏
日本の民話34 種子島の民話第二集よりお伝えします。

 

 

太郎の花嫁

 次郎が仲人になって、太郎の婚礼が行われることになりました。
 その花嫁の籠を担うのは、七兵衛と八兵衛という焼酎好きの二人でした。
 いよいよ時間になって、二人は花嫁を籠に乗せ、太郎の家に向かいました。黙って歩いているうちに、退屈した八兵衛が、
「七兵衛、何か囃子は無かか」
と話しかけました。調子者の七兵衛は、
「あるある、咲いた咲いた、花ぼたん、ほいほい」
とおどけた調子ではやしました。
「七兵衛、そがぁじゃなか(そうじゃない)、咲いた咲いたぼたん花、と言わんばじゃ」
と八兵衛が訂正しました。
「そうかそうか、ほいほい」
七兵衛は、お囃子の調子で返事して、さて二人一緒に
「ほいほい、咲いた咲いたぼたん花、ほいほい」
とはやしながら歩きました。
 だんだん行くうちに茶店の前に出ました。お囃子をやめて七兵衛が、
「八兵衛、茶店ぇ寄って一杯飲もう」
と持ち掛けました。
「よし、飲もう」
と八兵衛にとっても渡りに船です。そこで、籠の中に向かって頼みました。
「花嫁さん、銭ょくれぇ、銭ょくれぇ」
「いくらあげようか」
籠の中から花嫁が尋ねると、二人は声をそろえて、
「百文百文」
と言って、酒代を百文もらいました。
 二人は、花嫁の籠は茶店の傍に人目につかぬように据えて、店に入りました。
「酒じゃ酒じゃ、一升を二つに分けてくれ」
 二人は一息に飲みました。
「七兵衛、早う行かんばじゃ」
と八兵衛が急き立てて出てみましたが、二人はあっと驚きました。隠しておいた籠が花嫁ごと影も形もありません。
「こら大変じゃ、七兵衛、わごう(おまえは)あっちへ走れ、あらぁこっちぃ走る」
八兵衛はこう指図して、二人は息を切らして走り回りましたが、花嫁の姿はとうとう見つかりませんでした。
「こら、ちょっしもうた(しまった)、仕方が無か、逃げよう」と二人はそのまま行方をくらましてしまいました。
 一方、太郎と次郎は待っても待っても花嫁が来ませんので、すぐ七兵衛八兵衛の家に行ってみましたが人もいなければ籠もありません。
「こらまぁ、困ったもんじゃ」
と思案にあまっている間に日は暮れてしまいました。
 その夜はあきらめて、翌朝早く次郎と太郎は花嫁の足跡をたどってみました。そして茶店まで行って尋ねてみましたがそこから先がまるでわかりません。丁度そこに和尚さんが通りかかりましたので、二人は早速詳しい訳を話して助けを頼みました。
 和尚さんは静かにうなずきながら聞いていましたが、
「そら、算を置ぇてみらんばわからん、お前の家ぁどこか」
と尋ねました。
 二人は和尚さんを太郎の家に案内して、易を立ててもらいました。やがて和尚さんは卦を読んで、
「こらぁ、東丸山の下ぁ、ふとか(大きい)岩屋があって、そけぇ盗賊が十人ばかりこもっとる。花嫁はその盗賊にさらわれとる」
と言いました。太郎と次郎は残念そうに
「俺たちぁそけぇは行けんじゃろうか」
と聞きました。和尚さんは暫く考えてから、
「そらまぁ、行かれんこともなか。じゃが、行くなら白い着物を着て瓶を一つ抱えて行かんばじゃ。瓶にゃぁ眠り薬を入れた酒を詰めんばじゃんどう。今日の十二時から結婚祝ぁをしとるから、一時か二時に行くとよか」
と教えました。
 二人は喜んで和尚さんに礼を言って、早速支度にかかりました。毒酒は和尚さんが作ってくれました。
 太郎と次郎はそれを持って東丸山に行きました。門には、いかめしい門番が白い着物で立っていました。二人は門番に向かって丁寧に
「今日は祝ぁがあると聞いて、俺たちも祝ぁに来申した」
と言いました。門番は
「そら御苦労じゃった。早う行け、もう先から飲み方が始まっとんどう」
二人は金と銀で作った橋を渡っていきました。こんな立派な部屋を見たのは二人は生まれてから初めてでした。二人は、
「おいおい、親方ぁ、祝ぁに来申した」
と声をかけました。盗賊たちはみんなが相当に酔っています。
「早う来い、早う来いもう、のっちぃから(ずっとまえから)飲みおんどう」
と二人を迎え入れました。二人は下げてきた瓶を振って
「祝ぁじゃから俺も良か酒を持ってきた、どうかみんなで飲うでくれぇえ」
と言うと、盗賊たちはどろんとした目を見張って
「飲まんばや、飲まんばや」
と杯を持ちました。親方が花嫁に向かって
「花嫁、酌を取れ」
と言いました。花嫁が太郎の前に来ました。太郎は花嫁に目配せをして瓶を渡しながら
「この酒ぁ、おまやぁ飲んじゃいけんど」
とそっと耳打ちしました。花嫁は太郎の謀を悟って、みんなに酌をして回りました。みんなは、
「うまか、うまか」
と何杯も盃を重ねました。
「俺たちぁ踊ろう」
と太郎と次郎は、部屋いっぱいに踊りまわりました。
「踊れ、踊れ、踊れ、踊れ、踊れば花(祝儀)じゃ」
と囃し立てながら。
 そのうち、盗賊たちは酒の毒が回って、次から次に倒れていきます。それを見て次郎は太郎と花嫁に
「俺が踊っている間ぁ、わがたちゃぁ(お前たちは)早う逃げぇ」
と指図しました。
 太郎と花嫁は梯子を探し出して、裏から逃げ出しました。それを見届けてから二郎も後を追うて逃げ出しました。
 太郎と次郎は、かわるがわる花嫁を背負って無事家に戻りついたということです。