2018-12-24
種子島の民話
発行所 株式会社 未來社
発行者 西谷能英氏
編者 下野敏見氏
日本の民話34 種子島の民話第二集よりお伝えします。
虫けらの恩返し
むかし、むかし、あるところに大変心の優しい娘がいました。
どんなに小さな虫けらや、醜い虫けらも可愛がり、子供が虫をいじめているところでも見ると、金を出して虫を買い取り、その上で、逃がしてやるのが常でした。
家は大百姓で田を何枚も作っていましたが、その中に一枚だけ、いつも乾いてひび割れている田があるのです。
ある日、田の見回りに行ったおやじさんが、ふとその田んぼの畔に一匹の蛇がとぐろを巻いているのを見つけました。
おやじさんはつい、かねての愚痴で、独り言ともなく蛇に向かって
「お前もまぁ、俺の田に水でもかけてくれれば三人も娘がおるとじゃから、一人はくれてやろうものを」
と呟きました。すると、その蛇が人間のように
「そんたぁ、あり難い」
と言葉を出したのです。
おやじさんはすっかり気味悪くなりましたが、半信半疑であくる日も田んぼに行ってみました。すると、あのどうしても水のかからなかった田んぼが、たっぷりと水を湛えているのです。
おやじさんは、しょげ返って家に帰りました。そこへ見なれない若い男が訪ねてきて、
「約束じゃから、娘を貰いに来申した。」
と言いました。
おやじさんは、こら困ったことになった、と頭を抱えましたが、仕方無しに、まず、頭の娘を呼んで、蛇との約束を話しました。
「蛇の嫁なんでぇ、誰がなるもか」
と、かしら娘はにべもなく断りました。
二番目の娘も同じように腹を立てて断りました。これを見ていた三番目の娘が、
「私が、蛇の嫁になり申そう」
と申し出ました。
これにはいったん驚いたおやじさんも次にはほっと安心して、娘が言った通り、明日の夕方、末の娘を嫁にやろうと蛇に伝えました。
娘はおやじさんに頼んで、すき間の無い家を一軒建ててもらいました。
「おとうさん、心配せんでも良っから」
と言って、娘はその家に入って中からしっかり戸締りをし、麻のおを紡いでいました。
あくる日の夕方、若い男が娘を迎えにやってきました。おやじさんは、
「もう新しい家ができて、娘はお前を待っとるぞ。早う行け」
と若者に言いました。
蛇の若者はその家へ行って、
「おーい、おーい、開けてくれ、婿どんが来たぞ」
と戸を叩きました。
しかし、中からは人の声ひとつせず、物音ひとつしません。
何時しか夜となりました。すっかり腹をたてた若者は、蛇の本性を現して、家をぐるっと長い胴体で巻いてしまいました。そして尾でばちばちと壁を打ち始めました。
その音を聞くと、父親も母親も生きた気はしません。ようやくの思いで朝を待ちつけ、娘の所に走って行ってみました。
すると、家を巻いていた蛇は、そのまま白い腹をひっくり返して死んでいました。
娘が助けてやった虫けらが、蛇の体いっぱいに食いついて、蛇を殺したのでした。