種子島の民話

種子島の民話

発行所 株式会社 未來社
発行者    西谷能英氏
編者     下野敏見氏
日本の民話34 種子島の民話第二集よりお伝えします。

 

 

血の雨、血の風

 むかし、むかし、あるところに母一人、息子一人の家がありました。息子の名は「せんます」といい、年は十五になっていました。
 十五になれば男は一人前というのでこの年せんますは旅へ出ました。
 旅の最初の日が暮れたのでせんますはある家に泊めてもらいました。その家には娘が一人いましたが、女中たちがせんますの噂ばかりするので、娘はちらっとせんますをのぞき見しました。そして、せんますがあんまりきれいな若者なので、すっかり心を惹かれてしまいました。しかし、せんますの方は娘の心に少しも気づきませんでした。
 翌朝せんますは一夜の礼を言ってその家を出ました。しばらく行くと、道普請があってちょうど休み時間と見えてたくさんの人がお茶を飲んでいます。
 せんますがそこを通りかかったとき後ろから、
「おーい、せんますー」
と呼ぶ声がしました。それは昨夜泊まった家の下男で、せんますに手紙を届けるために後を追ってきたのでした。
 せんますは不思議に思って人々のそばに腰を下ろしてその手紙を開いてみました。手紙はその家の娘からのものだったのです。
 道普請の人の中に横津の八郎という男がいましたが、その八郎が、
「その手紙をおれぇも(わたしにも)見せぇ」
と言いますので、せんますは何気なく八郎に見せました。実はその横津の八郎こそ昨夜せんますが泊まった家の主人で、その娘の父親だったのです。
 八郎は娘の手紙を見ると、せんますが娘をだましたものと思いました。それですっかり腹をたてて、
「わりゃぁ(おまえは)、こちゃっぺのようすで(ガキのくせに)こがん(こんな)ことをして、さぁ、きかん(ゆるさん)ぞ」
と言って詰め寄りました。身に覚えのないせんますは、
「いや、おらぁその娘を見たこともなか(ない)、ただ手紙をもろうたばかり(もらっただけ)じゃ」
とわけを話しましたが、八郎はまるで聞きません。せんますは残念でなりませんでした。
「それじゃ、俺を殺せ」
とせんますは、腰の刀を二本とも抜いて
「一本はお前にやる。一本は家に送ってくれぇ、さあ切れ」
と叫びました。こうして、せんますは十五の年を名残りに殺されたのでした。
 やがて家にせんますの刀が送り届けてきました。せんますの母親は、夜も昼も嘆きどおして目も泣きはらしてしまいました。
「せんますよ、今一度姿を見せてくれ」
と墓石をかきくどくのでした。すると、一羽の鳥が墓から出てきて、
「ちゅん、ちゅん、ちゅん、泣くな(かか)よ、泣けば涙川も(ふこ)うなって通れぬ。悔めば時雨に山も曇るから、油灯を絶えずともしてくれ、ちゅん、ちゅん、ちゅん」
と言いました。それで母親もあきらめがつきましたが、
「横津の八郎が家は、血の雨、血の風、七日七夜吹き通せ、家が黒土にになるまで絶えてしまえ」
と叫びました。
 母親の祈りの通り、八郎の家はすっかり死に絶えてしまったそうです。