種子島の民話

種子島の民話

発行所 株式会社 未來社
発行者    西谷能英氏
編者     下野敏見氏
日本の民話34 種子島の民話第二集よりお伝えします。

 

 

かんごの国のかん五郎

むかし、むかし、かんごの国のかん五郎がタカシバ(竹の葉)を切りに行きました。正直で働き者のかん五郎は朝露が真珠の玉のように輝くタカシバを一心に刈り始めました。
 ところが、途中まで刈ったとき、タカシバの枝に首を挟まれて苦しんでいるカマキリを見つけました。
「こらー(これは)、ごうらしなげー(かわいそうに)、今首ょはずしちぇくるっから(今首を外してあげるから)、あぶのうなかとこさなぁ(危なくない所へ)、飛うじぇ行けぇ。」
 心の優しいかん五郎はそう言ってカマキリを助けてやりました。
 命拾いをしたカマキリは、天下様のお庭の花畑に行って、
「かんごの国のかん五郎に、高を千石くれんば(あげなければ)、天下の首はちんちぎる(ちょん切る)、ちんちぎる、ちんちぎる。」
と叫びました。天下様の家来たちがそれを聞いて、
「こらぁ、妙なことじゃ」
とたまがりました(驚きました)。するとまた、
「かんごの国のかん五郎に、高を千石くれんば、天下の首はちんちぎる、ちんちぎる、ちんちぎる。」
と鳴いたので、いよいよ不思議に思って天下様に申し上げました。すると、天下様は
「なしかぁ(どうして)、そがん事を言うとじゃろうか。わんたちゃぁ(お前たちは)、早うかんごの国さなぁ行たて、かん五郎を連れて来てみれ(連れて来てみなさい)」
と申されました。
 やっとのことで家来たちは、かん五郎を探し当てました。
「どまぁ(私は)、天下様の所さな(所に)行くような悪かこたぁした覚えはござり申さん時に、なしかぁ(どうして)じゃろうか」
と聞きますと家来たちは、
「なにも、わぁの(おまえの)悪か事したちゅうちぇじゃあ無っから(悪い事をしたという事では無いから)心配すんな」
と言って、天下様の所へ連れて行きました。かん五郎は両手をついて、
「どがぁな(どのような)用事でござり申すちゅう(用事でございますか)?」
と、恐る恐るもうしました。
「まあまあ、そがぁに(そんなに)心配せんじい(心配しないで)、ゆるりとせぇ(ゆっくりとしなさい)。庭でカマキリが、お前に高を千石くれよちゅうて(と言って)、鳴いたそうじゃ。これはきっと、お前がかねがね良か行いをしているからじゃ」
と言われて、天下様はたくさんの褒美をくださいました。
 かん五郎はそれから大変豊かな暮らしをしたちゅう事でござり申す。