鹿児島ふるさとの昔話
発行所 株式会社 南方新社
発行者 向原祥隆氏
編者 下野敏見氏
「鹿児島ふるさとの昔話」より鹿児島県内各地に伝わる昔話をお伝えします。大河ドラマ「西郷どん」が放映されてから”鹿児島弁”に興味を持たれた方も多いかと思います。”種子島弁”とはまた全然違う方言です。イントネーションをお伝えできないのが残念ですが、文字を読んでお楽しみください。
じいとすいげ
昔、貧乏なじいとばばがおったって。
ばばが言うに、
「じい、じい、お正月が近寄ったが餅をつく米も無ぇが、おまや、山ぇ行たて薪物の取って町ぃ売いけ行たて餅米を買うて来んや」
「そげんしようね」
ちゅて、ほいで、じいは山ぇ行たて薪物を沢山背負て町に売りに行ったと。そして売って、どしこか銭をもろて町を歩いていたら、見事な面が三つ店先ぃ下がっていた。
「こら珍しか面じゃ。こゆ(これを)買て戻ろ」
じじどんはこう言て、面を買て戻った、と。
「ばば、ばば、おら今戻った。今日は珍しか物を買て来たよ、ほら」
「お前は、米は買わじ、そげな面を買てきたとか。もうお前と暮らしはならん。出て行く」
じいは、もう、とんと困って、
「まあ、そう言わんでくれ。こん面は戻しっせぇ、米と替えっ来っで」
その晩は、真っ暗で寒かったげな。じじどんは途中火を起こしてちょっと休んでいたら、そこに銭袋を背負た掏摸人(すり)がやっ来て、
「俺も火をぬくませぇ」
と言た、と。ほして二人でぬくだ、と。そのうち、すいげは居眠りしたが、じじどんは寒くてたまらず、面を左右の膝に当て、もう一つは被った。そして冗談してすいげに向かい、
「おい、こらっ」
と叫だち。ところが、目を覚ましたすいげはひっ魂消って、銭袋も何も置いて逃げ出してしもた、と。じじどんは、
「こらあ、仕様がなか」
と言ながら、その銭袋を背負て、ばばどんの所へ戻りそいからよか世を暮らしたそうな。