鹿児島ふるさとの昔話「まっちょんちょげさ」「うずら屁」

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鹿児島ふるさとの昔話

発行所 株式会社 南方新社
発行者     向原祥隆氏
編者      下野敏見氏
「鹿児島ふるさとの昔話」より鹿児島県内各地に伝わる昔話をお伝えします。大河ドラマ「西郷(せご)どん」が放映されてから”鹿児島弁”に興味を持たれた方も多いかと思います。”種子島弁”とはまた全然違う方言です。イントネーションをお伝えできないのが残念ですが、文字を読んでお楽しみください。

 

 

まっちょんちょげさ

 あんねぇ、姉はまっちょん、弟はちょげさという姉弟二人(きょでふたい)暮らしておったそうじゃ。姉は自分は粗末なものを食て弟にはうまかものを食べさせておった。ところが、弟は横杵者(よんごもん)で疑い深く
(おい)()がこしこ(んま)かれば、姉は如何(いけ)旨物(んめもん)ぬ独り占めして食ちょいもんじゃろかい」
と思て、ごろいと(とうとう)姉を打っ(これ)て、腹を断割(たつぐわ)っ見たち。とこいが、姉どんのまっちょんの腹には、唐芋ん皮んよなもんばっかいあった、と。
 ほいから、弟のちょげさは泣いて泣いてとうとう山へ行ってホトトギスになったそうじゃ。そして、
「まっちょんちょげさ、まっちょんちょげさ、まっちょんちょげさ・・・・」
と、千口鳴いて、やっと虫を一つ捕って食えるのじゃ、とな。そしこんむかし。

 

 

うずら屁

 ある所に貧乏も貧乏な親子がおったげな。働れてん、働れてん、楽に(らき)ならじ、それに昔は大風(うかぜ)も吹いて食物(くもん)(ない)もなかった、ち。しかし、そこん息子は親孝行者で年老いた内女(ねにょ)(母)を養って(やいね)おった、と。
 ある日畑に行たて、
「何か()(もん)(おかず)がなかどかい」
と見まわしたら、丁度ウズラが茶やぶの中に入った。ウズラは昼は盲目で目は見えんそうじゃ。そろいと行ってみると、おったので、棒で叩いて殺した。そして昼飯がわりにそれを食たげな。そしたや、
「うずら屁をちっくゎけー、うずら屁をちっくゎけー」と言て屁が出るところじゃ。家に戻って、
内女(ねにょ)(母さん)、ねにょ、今日は畑でうずらを食たや、うずら屁をちっくゎけー、うずら屁をちっくゎけー、と屁がどんどん出てよ」
と言たと。
「そら、どうしたこっかい」
と母も驚いた。そして、一時(いっとっ)の間に村の噂になり殿様の耳にも入りとうとう殿様から呼び出され、そして御殿の中で
「うずら屁をちっくゎけー、うずら屁をちっくゎけー、・・・・」
と、屁をひってみせたのであった。
「うーん、こりゃぁ世にも珍しか奴じゃ」
と、大層(わざい)喜んで、(んま)背負限(うせかぎ)いの宝物を沢山(たからもんぬどっさい)土産に()いやった、ち。家に戻って、
「ねにょ、ねにょ、ほあ、屁の土産じゃ。殿様から宝物(たからもん)沢山(どっさい)もろたど」
()て母を喜ばせた、と。
ところが隣の欲五郎爺(よっごろじ)がそれを真似て、今度は蕎麦餉(そまげ)(蒸した唐芋に蕎麦粉を混ぜて搗いたもの)を腹一杯食(はらいっぺく)て、殿様ん所に行って屁をひったら、本物ん実どこいがどろんどろん出っ来て御殿を汚した、と。そしたや、
「んにゃ、こん和郎(わろ)は、偽物(にせもん)じゃ」
言て、海の中に投んこまれてしもた、と。
 ほいでね、やっぱい、親孝行で正直もんの人は神様が助けてくいやっとよ、と。そしこん昔。